ネットワーク技術は日々進化を続けており、さまざまな方法で安全な接続が可能となりました。ネットワークをよりセキュアに利用するための一般的な技術として、VPN (Virtual Private Network)が広く知られています。しかし、最近ではSD-WAN(Software Defined-Wide Area Network)という技術が注目され市場を拡大しています。今回は、SD-WANがどのような技術なのか、またVPNと比較してどう違うのか、それぞれの特徴について詳しく解説します。
VPNは「Virtual Private Network」の略で、日本語では「仮想専用ネットワーク」と呼ばれます。専用ネットワークとは、共有のインターネットとは異なり、特定の通信先同士だけが利用できるネットワークを指します。VPNでは、さまざまな技術を組み合わせてこの専用ネットワークを仮想的に実現します。
VPNには主にIP-VPNとインターネットVPNの2つの種類があります。
このタイプのVPNは、通信事業者の閉域ネットワーク上で実現されます。多くの場合、MPLS ( Multi-Protocol Label Switching ) を利用してパケットがやり取りされます。専用ネットワークを利用するため、コストがかかる反面、安全性が高く、信頼性の高い通信が可能です。
このタイプのVPNはインターネットを経由して仮想的な専用ネットワークを実現します。インターネット環境さえあれば、どこからでも接続でき、通信は暗号化されます。代表的な接続方式としてはSSL-VPNとIPsecがあります。
SSL-VPN:
クライアント端末からVPN接続をする際に一般的に利用される方式です。専用のクライアントソフトウェアがなくてもブラウザ経由で接続可能で、手軽に利用できるのが特徴です。ただし、利用できるプロトコルが HTTPやHTTPS に限られるという制約があります。
IPsec:
ネットワークレベルで通信を暗号化する方式です。SSL-VPNのように利用できるプロトコルに制限がない一方、設計と構築にコストがかかります。
VPNは主に認証技術、トンネリング技術、暗号化技術の3つを組み合わせて実現されます。
通信をしたい2者がお互いに正しい相手かどうかを確認します。認証機能を実現できるプロトコルは複数存在し、要件によって最適な方式が採用されます。
認証が完了すると、トンネリング技術を利用して仮想的なトンネルを形成します。これにより、物理的には複数の機器を経由していても、論理的には2者間が直接接続されているように見えます。
2者間の通信を暗号化することで、経路上での盗聴や通信の改ざんを防止します。なお、VPNを利用することで送信するパケットに認証方式や暗号化のためのデータが付加されるため、通信速度は若干遅くなることがあります。
SD-WANは「Software Defined-Wide Area Network」 の略で、日本語では「ソフトウェアで定義されたWAN( Wide Area Network )」を意味します。従来のネットワークは物理的な機器で経路を制御していましたが、SDN(Software Defined Network)技術の登場により、ソフトウェアでこれを実現できるようになりました。
SDNの登場によりネットワーク構築はより柔軟な設計ができるようになりました。
SDNでは「コントロールプレーン」と「データプレーン」を分けており、ソフトウェアを用いてネットワークを仮想化し、柔軟な設計が可能です。SDNコントローラを使用することで、設定変更や新しい機能の追加が容易になります。
通信を制御する部位を指します。これには、ネットワークのルーティングやトラフィックの管理が含まれます。
データを実際に転送する部位を指します。これには、パケットの転送やフィルタリングが含まれます。
SDNコントローラは、これらのプレーンをソフトウェアで制御し、一括管理することができます。APIを利用してコントローラとデータプレーン間でコミュニケーションを取るため、新しい機能の追加や不要な機能の削除が簡単に行えます。また、運用タスクの自動化も可能です。
SD-WANはSDNを応用してWAN接続でも使えるようにしたもので、WANを仮想化し柔軟な変更が可能です。複数のインターネット回線を効率的に利用し、アプリケーションごとの帯域制御も行えます。これにより、大規模なネットワークでも運用コストを削減できます。
特に昨今はオンプレミスとクラウドの両システムを使うハイブリッド方式が取られている企業が主流です。クラウドサービスに関連する通信はインターネットへ直接接続し、Webサイトの閲覧や社内システムへのアクセスなど検閲が必要な通信はデータセンターを経由させる、といった「ローカルブレイクアウト」と呼ばれる制御の実装が可能です。これにより、通信の経路を最適化し、負荷分散を実現します。
SD-WANとVPNはどちらもネットワークを仮想化する技術ですが、VPNは主に2拠点間の通信を仮想化するのに対し、SD-WANは複数の拠点でネットワークを仮想化できます。また、VPNは認証、トンネリング、暗号化を用いるのに対し、SD-WANは専用のソフトウェアで制御されるため、以下のような違いがあります。
VPNはネットワークレベルで動作し、主にポートでの制御にとどまりますが、SD-WANはアプリケーションレベルで通信を認識でき、より細やかな制御が可能です。
SD-WANはソフトウェアによる制御のため、柔軟な変更が可能ですが、ソフトウェアの不具合に影響を受けやすいというデメリットもあります。
集中管理も大きな違いの1つです。VPNでは設定変更が必要になった場合、複数の機器で変更を適用する必要があります。しかし、SD-WANを利用していれば、管理コンソールから一括で変更を適用できます。この違いはネットワークの規模が大きくなるほど顕著に現れ、VPN運用に必要な人手とSD-WAN運用に必要な人手で大きな差が生まれます。
今回はVPNとSD-WANの違いを紹介しました。どちらもネットワークを仮想的に利用するという概念は共通していますが、使用目的や背景、プロトコルなどに多くの違いがあります。これらの技術を利用する際は、それぞれの特徴を理解して選定することが重要です。正しい技術を選び、正しく使うことで、より高いネットワークパフォーマンスを実現できるでしょう。
2025/02/19 | カテゴリ:IT基盤構築
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