河川や用水路、ため池など、水の流量を調整する水門は、地域の暮らしを支える重要な設備です。
「農業繁忙期には、ため池から集落への送水をするために、毎日ため池へ行き、手動で水門の開閉操作をしているんです」
こうした声からもわかるように、いまだに多くの現場では、人が現地に赴きハンドルを回して操作する「手動水門」が主流となっています。長年使い慣れた仕組みではありますが、近年、この手動水門の管理・運用に多くの課題が浮き彫りになってきました。
特に豪雨時などに複数の水門を短時間で開閉しなければならない緊急対応は、管理担当者が一箇所ずつ巡回して操作を行うため、現地到着までに時間がかかり、対応が後手に回るケースがあります。
また、夜間や荒天時の出動は安全面のリスクも高く、担当者の高齢化が進む地域では、対応できる人員が限られるという深刻な問題もあります。
一方、気候変動による局地的豪雨の急増や後継者がいないことによる人員不足など、運用環境は年々厳しさを増しています。
こうした背景から、手動水門の自動化や遠隔監視・制御を可能にする仕組みへのニーズは急速に高まっていいます。
お役立ち資料:水門開閉監視遠隔制御システムのご紹介
手動式水門は自動化と遠隔で制御・監視できるシステムを導入できれば、水門の管理・運用方法は大きく変わります。
センサーや通信機器を組み合わせたIoTを活用したシステムであれば、
・雨量や水位のデータを自動取得し、リアルタイムで状況を把握できる
・管理事務所からボタン一つで水門の開閉が可能になる
・異常値を検知すると警報通知が届き、即時対応ができる
といった運用が実現します。
実際に一部の自治体などでは、主要な手動水門を自動化したことで現地対応の回数や職員の夜間出動を大幅に削減できたといった期待通りの効果が出ているようです。
また、操作の記録データを活用すれば、後日の検証や今後の管理計画の立案にも役立ちます。
一方で、「必要性は感じているが、導入には踏み切れない」という声も少なくありません。
理由として最も多く挙げられるのが、費用負担の問題です。水門をフルリニューアルして自動化システムを導入する場合、
・新しい電動ゲート機構の設置や既存水門の撤去工事費用
・制御盤、通信設備の新設費用
・電源設備の設置や通信回線の敷設工事費用
といった大掛かりな工事が必要になり、高額な費用が発生します。
また、既設の水門設備は設置時期や設置場所の違いから、型式や構造が異なり、標準化が難しく個別対応による設計や施工が必要になるため、コストや手間が増えるという課題もあります。
そのため、すべてを新しくするのではなく「既存設備を活かした段階的なICT化」こそが現実的な選択肢として注目されています。
ここからは、限られた予算の中でも水門の自動化・遠隔監視を実現するための実践的なポイントを紹介します。

最も大きなコスト削減策は、水門そのものを更新せずに自動化機構を後付けすることです。
既設の手動ハンドル部にモーターを取り付け、開閉動作を電動化する方式なら、設置場所ごとに型式や構造に違いがある場合にも柔軟な対応が可能になり、さまざまなスライドゲートに取り付けができるうえ、工事範囲も最小限に抑えられます。
また、ハンドルに取り付けるタイプはモーターがコンパクトにできるため、設置重量による既存躯体への影響もなく改修工事も不要になり、より短納期で安価な導入が可能になります。
近年は、防水・防塵仕様のモーター駆動装置など、屋外環境でも安定して稼働する製品が登場しており、万が一の緊急時には通常通りハンドルによる手回し操作に切り替えられるものもあります。

遠隔制御システムと言えば、以前は専用回線を敷設し制御盤を設けるケースが一般的で、これもコストを押し上げる要因でした。最近では、LTEやLPWAなどの無線通信を活用し、クラウド上に監視システムを構築する方法が主流になっています。
クラウド型の遠隔監視システムを利用すれば、専用サーバーの設置や保守が不要となり、管理コストも大幅に削減できます。
また、PCだけでなくスマートフォンやタブレットからもアクセス可能なため、現場担当者が出先で状況を確認できる利点もあります。
いきなり管理範囲の全水門を自動化しようとすると、初期費用が膨らんでしまいます。
そのため、管理上の重要度やアクセス困難度の高い箇所から順に導入していく段階的アプローチが有効です。たとえば、
・氾濫時のリスクが高く、対応が最も困難な水門
・対応する職員の安全確保が課題となる遠隔地の水門
・重要農業用水路などの分水地点
などから優先的にICT化を進めることで、効果を確認しながら徐々に範囲を拡大できます。
この方法なら、予算申請や関係者への説明も行いやすく、無理のない導入計画を立てることが可能です。
導入時に見落としがちなのが、運用後の維持管理です。
通信機器やセンサーは、屋外環境で使用されるため、経年劣化や自然災害の影響を受けやすい側面があります。
そのため、保守点検や遠隔監視のサポートを含めて提供されているシステムを選ぶことが大切です。
実際、近年の遠隔制御システムは「操作履歴の自動ログ収集」など、運用支援機能を備えたものが増えています。
導入後の運用負荷を最小限にすることが、結果的に長期的なコスト削減につながります。
国や自治体では、地域防災力向上や農業ICT化を目的とした補助金制度が用意されている場合があります。
≪各省庁補助金の例≫
・内閣府:デジタル田園都市国家交付金
・国土交通省:国土強靱化年次計画
・農林水産省:農山漁村振興交付金/農業水路等長寿命化・防災減災事業
・県庁河川課、農地整備課:緊急防災対策事業/緊急農地防災事業
また、複数の管理団体が連携して共同でシステムを導入・運用することで、通信回線やクラウド利用料をシェアできるケースもあります。導入のハードルを下げるためには、こうした外部支援の活用を早い段階から検討することが重要です。
手動水門の自動化・遠隔監視は、もはや一部の先進地域だけの取り組みではありません。現場に合わせた工夫を行えば、限られた予算の中でも十分に導入可能です。
・後付け型の電動化で既設設備を活かす
・無線通信とクラウドでシステムを簡素化
・重要箇所から段階的に導入
・共同での維持管理や補助金活用も視野に入れる
これらのポイントを押さえれば、従来の課題を解消しつつ、安全で効率的な水門管理が実現します。
現場の人手不足や災害対応の負担を軽減するだけでなく、将来的な防災力強化にもつながるでしょう。
「今ある設備をどう活かすか」――その発想の転換こそが、持続可能な水門管理の第一歩です。
関連ページ:水門開閉監視遠隔制御システム
2025/11/10 | カテゴリ:カテゴリ:IoT・センシング
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