災害時の水門操作課題と新たな方向性
~「現場に行かなくても済む仕組み」づくりへ~

近年、日本各地で発生する集中豪雨や線状降水帯による大雨は、河川の急激な水位上昇を引き起こし、住民生活や社会インフラに大きな影響を及ぼしています。

その中で河川管理において欠かせない作業の一つが「水門の開閉操作」です。

特に中小河川や農業用排水路、都市部の中小水路では、幅数メートル程度の手動式水門が数多く設置されており、地域の安全を守るために日々の管理が続けられています。

ところが、大雨や台風といった災害時には、こうした手動水門の操作が作業員自身の安全リスクを伴う大きな課題となっています。

本記事では、災害時における水門操作の現状と課題、さらに新しい取り組みの方向性について掘り下げて考えてみます。

手動水門操作における危険性

手動水門においては、当然ながら「人が現場に行き人の手で直接操作する」必要があります。そのため、台風や豪雨などの災害時は以下のような危険が伴います。

1.豪雨時の現場作業
豪雨が発生した際、水門の操作は「今まさに水位が上がっている」状況で行われます。作業員は雨が強まる中、河川や水路に隣接した水門まで行き、水門を開閉するハンドルを回すなど、物理的な操作を行わなければなりません。強風や視界不良、足場の悪化などが重なれば、転倒や河川への転落といった事故につながるリスクが高まります。

2.夜間や台風時の対応
深夜や台風接近時に水位が急上昇すると、作業員は暗闇や強風の中で作業を迫られます。都市部以外では照明が不十分な場所も多く、操作の際に自分の周囲が安全かの確認すら困難なこともあります。こうした状況では、作業員の負傷や命に関わる事故が起きかねません。

3.緊急時の複数拠点対応
大規模な降雨では、一度に複数の水門を開閉しなければならないケースも発生します。対応する作業員の人数は十分でない場合が多く、限られた作業員が短時間で複数の現場に対応するのは容易ではないばかりか、移動中に豪雨や冠水によって孤立する危険もあります。


          これまでの安全対策とその限界

          台風や豪雨時における手動水門の操作については、水門管理者でも、安全対策として以下のような工夫でリスク低減を図るなどの対策をしてきました。

          1.雨量計や水位計の設置
          これまでの経験による判断に加え、雨量計や水位計の値を確認することにより、水門の開閉操作が必要かどうかについて判断を早める。

          2.作業員への安全装備着用の徹底
          現場で操作を行う場合は、防水服やライフジャケット、ヘルメットや安全ベルトなどの着用により浸水時の転倒や流されるリスクを削減する。

          3.複数人で現場に向かい操作を実施
          現場へは常に二人以上で行き、一人が操作を行う間にもう一人が安全確保のため周囲の状況を確認するなどして、不測の事態に対応できるようにする。

          しかし、どれほど安全対策を強化しても「人が現場に行き人の手で直接操作する」という前提がある限り、根本的なリスクは残り続けます。特に気候変動による降雨の激甚化が進む現在、従来の延長線上の対策だけでは限界に達しつつあるのが実情です。


                  災害時に求められる新たなアプローチ

                  どんなにリスク低減の対策をしたとしても災害時には「人が現場に行き人の手で直接操作する」という手動水門操作の前提をなくすためには、新たなアプローチが必要です。特に近年はICTの活用が注目されています。

                  1.遠隔での監視や制御
                  安全を守るための取り組みとして、最近注目されているのが「ICT技術を使った水門の遠隔操作や監視」です。
                  今では、手動の水門にも後から取り付けられる「自動化ユニット」が開発されており、これをIoT技術と組み合わせることで、水門の自動化や遠隔操作が可能になります。
                  さらに、センサーや監視カメラの情報も通信ネットワークを通じて取得できるため、現場に行かなくても周辺の状況を把握できるようになります。
                  この仕組みにより、作業員が豪雨の中や夜間の暗い場所に出向く必要がなくなり、安全面でのリスクを大きく減らすことができます。

                  2.状況判断支援
                  これまでは、作業員が雨量計や水位計を目で見て確認し、その情報をもとに水門の操作を判断していました。
                  しかし最近では、雨量や水位などのセンサー情報をクラウド上でリアルタイムに集めて、わかりやすく「見える化」するシステムが広まりつつあります。
                  このようなICT技術を活用した仕組みによって、現場での判断がより早く・正確にできるようになり、安全を確保しながら、状況に応じた的確な水門操作が可能になります。

                  3.災害時の体制強化
                  ICT技術の導入と並行して、複数拠点をまとめて監視できる管制センター的な体制を構築する動きもあります。これにより、各地域の小規模な管理団体が単独で判断する負担を減らし、広域のエリア全体として統一的な対応が可能になります。


                          今後の課題

                          水門の遠隔監視や制御などのICTの活用は、水門管理の効率化に大きく役立ちます。しかし、導入にあたってはいくつかの課題もあります。

                          1.導入コストや通信環境の整備
                          システムや通信設備の整備には費用がかかります。特に通信インフラや電源確保などが十分でない地域もあり、整備の負担が大きくなります。

                          2.全水門に対して一度にシステム導入することが難しい
                          管理する水門すべてにシステム導入したいところですが、一度にまとめて導入することは現実的ではありません。優先度の高い水門から順に導入していくなど、計画的な導入が必要です。

                          3.停電や通信障害への対応
                          停電や通信障害により導入したシステムが使えない場合に備えた現場での対応やバックアップ体制も整えておくことが重要です。

                          こうした課題を解決するためには、国や自治体が行っている補助事業をうまく活用したり、地域の状況に合わせた導入計画を立てることが大切です。
                          また、すでにこうしたシステムの導入実績がある専門業者に相談するのも有効な方法です。
                          業者を選ぶ際には、システムの設計・構築や導入後の保守対応だけでなく、補助事業の調査や情報提供、申請書の作成支援など、導入に向けた一連の流れをトータルでサポートできる知識と技術を持っているかどうかが重要なポイントになります。


                                  まとめ

                                  手動水門の開閉操作は、災害時には地域を守るために欠かせない作業である一方、作業員にとっては大きな負担と危険を伴います。今まで警戒していた大雨や台風に加え、昨今は予測が難しく急に発生するゲリラ豪雨などが増えたこともあり、もはや従来のような「人が現場に行き人の手で直接操作する」から離れられない安全対策では十分ではありません。ICTを活用した遠隔監視や制御など新しい仕組みの導入が不可欠な時代に入りました。

                                  災害時における水門操作の安全確保は、単に作業員の生命を守るだけでなく、地域住民の生活やインフラを守ることにも直結します。これからは「人が危険な現場に行かなくても済む仕組み」をどのように整備していくかが、災害時の水門管理における最大のテーマとなるでしょう。

                                  皆さんの地域の水門管理は、十分な安全が確保されているでしょうか?」この機会にもう一度考え、地域住民や自治体、技術提供者が協力して、より安全な河川管理の実現を目指しましょう。

                                  関連ページ:水門開閉監視遠隔制御システム

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                                  2025/10/20 | カテゴリ:IoT・センシング

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