
河川や用水路、ため池などの管理を担当されている皆さんは、日々こんな悩みを抱えているようです。
「大雨の予報が出ると、遠隔地で時間はかかるが現地へ行き、水位確認や水門開閉操作が必要」
「夜中の緊急対応で豪雨の中、現地に行くにも周囲は照明もない暗いだけでなく足場も悪いので非常に危険」
「水門の設置場所が山間部で最近は周囲に熊の出没情報もあり、作業するにも危険が伴う」
「高齢化が進み、水門操作時に重いハンドルを長時間回し続ける作業はとても大変」
実は、同じような課題は全国で深刻化しています。
特に近年は気候変動の影響で、突発的な豪雨が増加しており、水門の迅速な操作がこれまで以上に重要になっているのです。しかし現実には、水門の管理・運用、特に各地に多数設置されている手動操作が必要な水門には多くのハードルがあり、担当者の負担は増すばかりです。
本記事では、こうした手動水門の管理・運用の課題を解決するICT技術の導入、特にIoT(Internet of Things:「モノのインターネット」さまざまな「モノ」をインターネットと繋ぐ技術です)の活用によって、どう解決できるのか、そして導入する際に押さえておくべき必須機能について、具体的にご紹介します。
お役立ち資料:水門開閉監視遠隔制御システムのご紹介
まず、現場で実際に起きている課題を整理してみましょう。
「集中豪雨の際、現地に向かう道路がすでに冠水し始めていて、水門操作に行くこと自体が危険な状況な場合。結果的に開閉作業が遅れ、周辺農地への被害を最小限に抑えられなかった・・・」という状況も実際に起きているように、緊急時ほど現地に行くことが困難になるというジレンマがあります。
手動のスライドゲートを開閉するには、ハンドルを何度も回す必要があり、その作業には平均15分~20分程度の時間がかかるとされています。管理する水門が複数箇所に分散していればこの作業が何倍にも増え、移動時間も含めれば、長時間の仕事になることもあります。高齢化が進む現場では、身体的負担は大きな問題です。
水門を操作した後も、実際に正しく開閉できたか、水位はどう変化しているかを確認するため、定期的に現地へ足を運ぶ必要があります。離れた事務所などから現地の状況を把握することができないため、常に「現地に行かなければわからない」状態が続きます。
これらの課題に対して、IoT技術を活用した監視・制御システムが注目されています。「大がかりな電動化工事が必要なのでは?」と思われがちですが、最近では既存の手動水門を破棄して新たに設備を作り直さなくても、後付けで機器を設置することで、遠隔からの操作や状況確認が可能になるシステムがあります。
制御する手動水門のハンドル部分には、人の代わりにハンドルを回す動力部として自動化機器を取り付けます。また、自動化装置の制御部と監視用途としてカメラや各種センサーをインターネット接続されたIoT機器と連携させることにより、スマートフォンやパソコンから遠隔で水門の開閉操作や状態監視ができるようになります。

では、実際にIoTシステムを導入する際、どのような機能が必要なのでしょうか。現場の課題を解決するために押さえておくべき必須機能を5つご紹介します。

最も重要なのは、今ある手動水門をそのまま活用できることです。全面的な設備更新には多額の予算が必要で、現実的ではありません。さまざまなタイプのハンドル形状に対応でき、水門本体を取り外さずに設置できる機器を選ぶことで、導入コストを大幅に抑えられます。また、工事期間も短縮でき、水利用への影響を最小限にできます。
事務所や自宅から、いつでも水門の開閉操作ができることは基本中の基本です。しかし、操作だけでなく「本当に開閉できたか」を確認できることも同じくらい重要です。カメラによる映像確認や、開度センサーによる数値データの取得など、複数の方法で状態を把握できる仕組みが必要です。深夜や悪天候時でも、現地に行かずに確実な操作と確認ができることが、担当者の安全確保につながります。
水門の開閉だけでなく、河川や水路の水位、水流の状況をリアルタイムで監視できる機能も欠かせません。水位計やカメラで現場の状況を常時把握することで、適切なタイミングでの水門操作が可能になります。また、異常な水位上昇が検知された際に、自動でアラートメールを送信する機能があれば、夜間や休日でも迅速な対応ができます。
多くの担当者は、複数の水門や樋門を管理しています。それぞれの場所に個別に行くのではなく、一つの画面ですべての地点の状況を確認し、操作できることが理想です。地図上に各施設の位置と状態を表示し、優先度の高い場所から順に対応できるようなシステムが、効率的な管理を実現します。クラウドベースのシステムであれば、複数の担当者が同時に情報を共有することもできます。
多くの水門は、商用電源が引かれていない、有線の通信回線がない場所に設置されています。電源はソーラーパネルとバッテリーの独立電源で連続稼働できること、そして通信は携帯電話の電波が届くエリアであれば携帯電話の回線による通信に対応していることが重要です。また、電波状況が不安定な場所では、データの一時保存機能や再送機能があると安心できます。
もし携帯電話の電波が届かないエリアでの運用も考慮し、LPWAなどの他の通信手段に対応しているかも重要なポイントになります。
実際の導入にあたっては、いくつか注意すべきポイントがあります。
まず、初期費用だけでなく、ランニングコストも含めた総費用で比較検討することです。通信費用、クラウド利用料、保守費用などが継続的に発生します。
次に、導入後のサポート体制を確認しましょう。機器の不具合やシステムトラブルが発生した際、迅速に対応してもらえる体制が整っているか、全国展開しているサービスであれば、現地でのメンテナンスも受けられる可能性があります。
また、段階的な導入を検討することも賢い選択です。すべての水門を一度に更新するのではなく、最も課題の大きい場所や重要度の高い場所から試験的に導入し、運用ノウハウを蓄積してから範囲を広げていく方法が、リスクを抑えながら確実に成果を出せます。
手動水門の管理・運用における課題は、担当者の安全、業務効率、そして地域の防災力に直結する重要な問題です。IoTシステムの導入は、これらの課題を同時に解決できる有効な手段といえます。
重要なのは、「遠隔操作」「状態監視」「一元管理」「既存設備の活用」「柔軟な電源・通信対応」という5つの必須機能を押さえたシステムを選ぶことです。これらの機能が揃っていれば、大規模な設備更新を行わなくても、現場の負担を大幅に軽減し、迅速な水門操作が可能になります。
近年の気候変動により、水害リスクは確実に高まっています。担当者の皆さんが安全に、効率的に業務を遂行できる環境を整えることは、地域の安全を守ることにもつながります。まずは管理している水門の現状を整理し、最も課題の大きい場所から、ICT技術の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
各地の自治体や土地改良区での導入も徐々に進められています。皆さんの現場でも、IoT技術を活用した新しい水門管理の形を実現できる可能性が、きっとあるはずです。
関連ページ:水門開閉監視遠隔制御システム
2025/11/10 | カテゴリ:カテゴリ:IoT・センシング
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